【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第41回 砂上の老閣 2017年3月22日配信

当社の社員が交通事故にあった。通勤時に老人の運転する車が急に飛び出し、はねられたらしい。この社員は幸い命には別状なかったが、ひどいむち打ちとその後の後遺症にいまだ悩まされている。

最近、こうしたシルバーの絡む事故をよく耳にする。
私自身も車を使うので、同世代の起こす交通事故は他人事とは思えない。

私は車が大好きである。毎日でも高速道路を飛ばして通勤したいぐらいだ。
10数年前までは、毎日マイカー通勤していたが、自宅近くに「つくばエクスプレス」が開通してからというもの、急に電車での通勤が増えてきた。

終点の秋葉原駅で降りて、会社までドアー・ツー・ドアーを約1時間弱で行ける。これが車だと、高速道路を利用しても、あの忌々しい渋滞に出くわすと2時間を超える道のりになってしまう。電車なら、そんな心配もなくちょっとした軽い運動にもなる。

そんなことから、ここ数年マイカーでの通勤回数はめっきり減った。

最近、私の運転はせいぜい自宅近くにあるスーパーやデパート、2か月に1回程度定期検診のために行く病院、サックスのレッスン教室、たまのドライブぐらいである。安全運転なのでこれまで事故らしい事故に遭遇したことはない。免許証もいまだに無傷のゴールドである。

しかしながら、実はこのごろは少々運転が苦手になってきた。というか運転そのものが下手になって高速道路を走るのが怖いと感じることもある。ヒヤッと思う瞬間も何度か体験した。得意だったパーキングでのバック駐車や自宅での車庫入れも必ず斜めになってしまう。

また、加齢とともに視力もだいぶ悪くなってきた。
1年前に検診してもらったときは、両目とも0.8ぐらいだったのが、今では両方0.3ぐらいに衰えてしまった。そんなことから、近ごろでは眼鏡をかけて運転しており、次回の免許証更新での視力検査が心配だ。

さて、最近、新聞やテレビなどで、高齢者が引き起こした交通事故のニュースが日常茶飯事のように取り上げられている。

アクセルとブレーキを間違えて急発進させたり、ギアの入れ違いでコンビニへ突っ込んでしまったり、一方通行を逆走したり、ビルの屋上から落下してしまったりと。

加齢からくる運転技術の低下や判断ミスが原因であると推測される。

こうした事故は、一見単純なケアレスミスのように見えるが、歳を取れば誰にでも起こりうることだろう。今のところ私自身には、まだうっかりミスの症状は現れていないが、あと何年かすればきっと出てくるに違いない。

それに伴い、最近シルバーの免許証返納もクローズアップされるようになってきた。私と同じように高齢化した団塊世代が急増しているからだ。運転スキルが低下しているドライバーを減らして、交通事故を未然に防ぎたいとする国の強い意図が見える。

しかし、高齢者が引き起こす事故は今に限ったことではなく、以前からもしばしばあったような気がする。今日のように、何故こんなにシルバーの事故が頻繁にしかも大きくクローズアップされるようになったのか、ちょっと理由がわからない。

テレビなどで盛んにコマーシャルしている自動ブレーキ装置付きの新車を発売している自動車メーカーの利益などを、政治が優先してはいないだろうかと、勘ぐったりもしてしまう。

考えてみると私の生まれ故郷の南房総市では、家庭の常備薬のように車がごく普通に生活へ浸透し、今や車社会に変貌しつつある。

家族に1台では足らず、1人1台所有している世帯も多い。食料品や日用品の買い出しはもちろんのこと、友達との食事や飲み会(もちろん帰りは代行で)、職場での新年会や忘年会でも必ず車を使う。孫の送り迎えやコンビニに行くときですらも車を使う。

高齢化に伴い人口が減少した分、路線バスや電車の便数が大幅に減ってしまったからである。

また、田舎は都会以上に核家族化が進んでいて、一人暮らしのご老人でも、自分のことは自分にしか頼れない。病気になっても家族がすぐにサポートできない切実な問題も抱えている。免許証を返納して車と縁を切ってしまったら、あとはタクシーに頼るしかない。

たまに故郷に帰ると、都会では当たり前に利用している路線バスや電車などの公共機関の有り難さが本当によくわかる。

自宅のお隣のお婆ちゃんは、80歳を過ぎたころにとうとう免許証を返納した。聞いてみると、やはり運転が怖くなったからだそうである。

しかし、足代わりになる車がないと不自由はしないのか、病院や買い物はどうするのか、お年寄りだけにちょっと気にもなる。

私の家でも、奥方1台、私も1台使っているので、何かの理由でどちらか一方が運転できなくなると、途端に毎日の生活が成り立たなくなる可能性もある。

最近、近くのコンビニで老夫婦が買い物かご一杯に、しかも2箱も、レジカウンターで清算している光景を目にした。想像するに、スーパーの代わりにコンビニで買い物を済ませているのではないかと思われる。

コンビニなら、簡単な食べ物ぐらいなら揃えられているし、値段は少々高目だが徒歩で行けるからである。

このようにシルバーの命綱ともいえる車の免許証を返納してしまったら、その後の生活の範囲は、かなり狭まられてしまうのは間違いない。病院に行くにも、薬を貰うにも、買い物に行くにも、役所や銀行に行くにも、どんな方法で出掛けて行ったらいいのだろうか? そして近所や友達との付き合いも。

そうした社会的な生活基盤が十分整ってから、免許証の返納ならまだ構わないが、いきなり、シルバーは事故が多いから免許証を返せ、ではちょっと乱暴すぎないか?

ここまで考えるとだんだんと自分の老化と政治に腹が立ってきた。

私は、奥方と共に、本当に体が動かなくなるまで、免許証の返納だけはしたくない。せっかく持っている命綱なのである。

しかし冷静に考えると、私が命綱と思っている運転免許証のせいで当社の社員のような何も罪もない人を事故に遭わせてしまったら、それこそ一大事だ。本当に困る。

決心しよう「いずれは返納する」。いつにするかはまだ決めていない……。

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


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