【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第22回 見かけより、中身で勝負! 2015年8月19日配信

今日は残念なことを書く。

昔からよく知っている「新橋さぬきや本舗」がとうとう閉店してしまった。「新橋さぬきや本舗」とは、JR新橋駅の烏森出口近くに40年以上も前からあったうどん屋のことである。

ここは私が前の会社に勤めていたとき、毎日のように同僚と通っていた店だ。最近、閉店のことをインターネットで知ったので、昼休み新橋まで確認のため出かけてみると、確かにジンギスカンのお店に変わっていた。自分の中から、また1つお気に入りの味が消えてしまった。

現在、「新橋さぬきや本舗」があった新橋西口通りには、多くのレストランや飲み屋が軒を並べている。当時は「新橋さぬきや本舗」と飲み屋が1軒あっただけで、本当に閑散とした人通りも少ない裏通りだった。「新橋さぬきや本舗」の店内は薄暗く、清潔感も今一つだった。隣同士に座ると肩がぶつかってしまうぐらい狭いお店だった。しかし、最高に美味い!

残業するときは、いつも決まって18時に行っていた。胃がもたれず、丁度よい量だった。私の好物は、メニューの1ページ目に大きな文字で「みそけん」と書いてあった「味噌けんちんうどん」だ。黒っぽい味噌仕立ての汁の中に、讃岐うどん独特のコシの強い手打ち麺と、いろいろな野菜が煮込まれた田舎風のうどんである。

最近巷で流行っている「○○うどん」や「××製麺」のうどんとは、正直言って麺のシコシコ感や出汁の味がまったく別次元のうどんである。冬はアツアツの麺で舌を火傷しながら「フッーフッー」し、夏は汗だくになりながら食べたものだ。それでも、ここのうどんには十分満足感を得ていた。

一度だけ自宅で、奥方に「みそけん」の味や具の材料などを伝え、「なんちゃってみそけん」に挑戦してもらったことがあるが、想像通りまったく違うものが出てきた。今思うと一度食べに連れて行けばよかったと後悔している。

2年前、インターコムの社員にどうしてもこのお店を教えたくて、顧客のところへ行く途中わざわざ寄ってみたことがある。それまで何年かご無沙汰していたので、もしかしたら営業していないのではと半信半疑だったが、前まで行くとまだ頑張って営業していた。

店構えは以前とまったく変わらず当時のままだった。注文を取りに来た責任者らしき人は、日本語がたどたどしい外国籍の人のように見えた。これには少々ビックリした。あの純古風の「新橋さぬきや本舗」……も? と。

席に着くやいなや注文したのは、もちろん「みそけん」だ。一緒に入った社員達は「みそけん」や、よくある昔ながらの讃岐うどんを注文した(「みそけんがお勧め」と言ったのに)。

確か以前「みそけん」の値段は700円ぐらいだったと思ったが、そのときは900円だった。近ごろの物価上昇からみればそれほど値上げしていない感じもした。一口食べると何十年ぶりにあの懐かしい味が甦ってきた。なぜだか涙が出るほど嬉しかった。そして懐かしかった。

しかし、こんな小さなお店で40年以上もよくやってきたものだと大いに感心した。この話題を当社の朝礼で話したことがあるが、スピーチしている間に感無量となって、情けないことに少しだけ声が擦れ涙腺が緩んだような気もした。

「新橋さぬきや本舗」の社歴のことを例に持ち出して、最近のIT企業の平均寿命がわずか5年程度しかないことや、事業を継続することの難しさや厳しさについて話したことを思い出す。

以来、客先を訪問した帰りに社員を連れて「みそけん」を食べに行く回数が増えた。また、社員からのリクエストも出てきた。

しかし、今思うと味一筋で勝負してきた有名店なのだから、できることならもっともっと長く続けて、大勢の人に「みそけん」や本物の讃岐うどんの魅力を伝授して欲しかった。続けていれば、もっと多くの人を幸せな気持ちにさせることができたのではと思うと残念だ。

もし、店を閉める前に知っていれば、自分が「新橋さぬきや本舗」を経営したかったくらいの気持ちだ(冗談半分だが)。本当にもったいない話だと思う。

最近は、飲食チェーンが横行している。店の構えは大きく立派で、店内は清潔で社員教育も行き届いている。しかし、肝心要の本物の味を出せるお店が少なくなってきたのではと感じる。

見た目や名前は似ているが、どこか昔ながらの本物の味とは違う。昼休み時ともなれば、ベルトコンベアー式にどんどんお客を吸い込んで安さと早さで勝負しているようだが、味に「料理人の心意気」のようなものはまったく感じられない、と思うのは自分だけだろうか?

もちろん、ビジネスから見れば、こうした大型店の方が成功する確率は高いだろう。早くて安いことは誰の目から見ても大きなセールスポイントだ。しかし、その一方で、老舗や本物の味を味わえる昔ながらの専門店が衰退していくのは誠に残念だ。

やはり自分のようなシニア世代にとっては、両方のいいところを味わえるお店が選べる方が嬉しいし、楽しい。

のれんを下ろした偉大な「新橋さぬきや本舗」に、改めてもう一度心から「ありがとう」と言いたい。

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


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