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【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第14回 「井の中の蛙、大海を知らず」- その2
~ガラパゴス化した日本のIT企業~ 2014年12月17日配信

前回の「第13回コラム」で、日本のソフト企業のグローバル展開が極端に進んでいないことを書いた。

我々の業界でグローバル展開というとすぐにオフショア開発が浮かんでくるが、ここでは「メイド・イン・ジャパン」のソフトを海外に向かって発信させていくことを指す。以前、この「メイド・イン・ジャパン」ソフトの海外アプローチについて何人かの経営者の方にお聞きしたことがあるがこんな声が返ってきた。

「グローバル展開したい意欲は十分あるが具体的にどのようにビジネスを進めていったらいいのか、今は“How”を持ち合わせていない。」「過去に海外でソフト開発の現地法人を立ち上げたことはあるが成功までに至らなかった。今はそのビジネスから撤退している……」

「メイド・イン・ジャパン」ソフトを世界に広げたい「夢」は大勢の経営者がお持ちだということがよくわかった。実は、当社自身も一度海外進出を経験したことがある。

当社は1996年に、台湾で「台湾英徳康股分(台湾インターコム)」というソフト会社を興した。本社で商品化したソフトをこの子会社をハブにしてアジアやヨーロッパ諸国へ流通させるためと、この子会社で開発したソフトを日本を含む海外市場に展開していくための会社だったが、結果として6年で撤退を余儀なくされてしまった。

ビジネスプランはうまく描けているつもりが、現実は計画通りに商品が売れず、収支はマイナスの連続だった。各国向けのマルチランゲージやマルチドライバー対応、販路作り、損益ぎりぎりのロイヤリティ、現地社員の流出や管理、最後は資金不足と、予期しなかったトラブルや難題が次から次へと起こり我々の頭を何度となく悩ませたものだ。

欧米ではITビジネスのグローバル化は当たり前になっているが、アジア諸国のソフト企業はどうなのか、お隣の国の韓国と台湾とそれからベトナムの友人に聞いてみたことがある。こちらは日本とはかなり違うフィーリングを持っている。

例えば台湾や韓国はもともと国土が狭くその分国内のIT市場も小さい。市場規模ではベトナムも同様だ。GDPから見ても日本の世界第3位に比べて、それぞれ韓国は14位、台湾は27位、ベトナムに至っては58位と日本との経済規模の差がわかる。当然国内ニーズだけではビジネスが成り立たないので、その裏返しとして必然的に欧米、中国、日本など、より市場の大きな国へ進出して行くことが当たり前になっている。

このような面から見ても、アジア諸国と日本のソフト企業ではグローバル展開へのモチベーションや環境が根本から異なる。「東京ビッグサイト」などで開催されるITフェアで、たくさんのアジア系企業がインターナショナルパビリオンで展示をしているところをよく見かけるが、小さなソフト企業でも果敢に日本進出を試みている。彼らにとってのグローバル展開は、我々のように特別なことではなく、ごく当たり前のビジネスとして捉えられている。

彼らを見ていると我々もうかうかしていられない。当然、彼らは日本市場を熟知している日本の販売パートナーにアプローチしてタッグを組んでくるに違いない。一方日本企業からも彼らにアプローチしてジョイントで勝負してくることも十分考えられる。いずれにしても近いうちに、日本の土俵で我々と競合する日が必ずやってくるだろう。

ご存じのようにこれまで日本から海外進出している企業は主にゲーム系のソフト会社が中心であったが、ここ数年、我々の仲間であるビジネス系のソフト企業の中からも海外進出するところが出始めてきた。頼もしい限りである。ただ現状では大手企業系列の海外拠点にある製造工業やブランチがターゲットであり、まだまだ海外ユーザーへ直接商品を浸透させるところまで行き着いていない。それでも、ぜひ頑張って欲しいものだ。

最近、日本のIT企業の海外進出で一番必要なことは「グローバル人材」の輩出ではないかとつくづく思う。老婆心ながら言うと、もはや我々世代やミドル世代から「グローバル人材」の輩出は無理かも知れない。次世代のITを担うには、やはり新たな世界を切り開いて行ける国際感覚を持った若者に任せるしかないと思うようになってきた。

しかし、その期待の星であるはずの若者にも少なからず不安が見え隠れする。なぜか最近は、内向き志向の考え方を持った若者がとても多い。グローバル展開に必須な、海外に挑戦する意欲や度胸を持った若者が以前に比べるととても減った感じがしてならない。

新聞にも載っていたが、とりわけ感じるのは日本の留学生数の減少である。特に重要と思われる米国への留学がここ10年で4割も減少しているとのことだ。最近では米国への留学生数はインドを筆頭に中国、韓国が増やしている反面、日本と台湾は減少している。残念である。

留学生が増加している韓国でよくこんなことを耳にする。韓国では8割以上が大学に進学するものの卒業後の就職難は日本とは比べものにならないほど厳しいらしい。せっかく超難関試験を突破して有名大学に入れても希望する企業への就職はさらに超狭き門となる。

財閥系大手企業の元気の良さばかりが目立つ昨今の韓国だが、一方で中小企業に目を向ければ非正規雇用が多く、大企業との格差は開くだけで貧しさは厳しくなるばかりとのこと。そんな理由から将来を見つめ、新天地を求めて米国などの大学を目指す学生が急増している。また働く場を求めて海外に移る人も多いとのことだ。

韓国の私の知人は息子の留学に備えて奥さんも米国に移住させた。息子が留学を終えたら韓国内の大企業にスムーズに入れるようにすることが目的だが、奥さんも一緒に米国へ渡り息子の留学生活の面倒を見るとのことだ。旦那の方といえば、韓国に一人残り会社勤めをしながら稼いだ給料の一部をせっせと息子たちに仕送りすると言う、なんとも涙ぐましい努力を続けている。

台湾の知人も、息子を海外留学させたいと言っていた。だが希望していた米国への入試レベルが追いつかず、やむを得ずオーストラリアの大学へ留学させた。留学目的は、韓国の知人とほぼ同じで、台湾国内でのビジネスの規模や就職先企業の少なさを心配してのことだ。卒業後のことを考えて今から様々な選択肢を準備している。それから台湾では中国との統一問題が心配らしく、将来、本国とどのような形になっても大丈夫なように、留学を通して海外に道筋を作り、その地ならしをしておきたいとも言っていた。

理由はともかくとして、韓国や台湾の親は、今は苦しくても子供達に海外留学を経験させ、卒業後にグローバル感覚を身に付けた世界の場で活躍できる人材になってくれることを期待しているのである。

日本も含め世界のすべてのビジネスがグローバルに変化したとき、果たして我が国のIT企業や息子達は本当に競争に勝てるのか? 今からとても心配である。

「がんばれ! 若者」。

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


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