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VPNの安全性は? 仕組みやリスク、企業が行うべき対策を解説

VPN 安全性
VPNの安全性は? 仕組みやリスク、企業が行うべき対策を解説

VPN(Virtual Private Network)は、インターネット上で安全な通信を確保する技術として広く利用されています。近年、リモートワークの普及やサイバー攻撃の増加に伴い、様々な企業がVPNを導入していますが、VPNを利用しているからといって、情報漏洩のリスクがゼロになるわけではありません。VPNの種類や仕組みを理解し、どのようなリスクが潜んでいるのかを知ることが、適切なセキュリティ対策を講じる第一歩となります。
本記事では、VPNの基本的な仕組みやリスク、VPNをより安全に活用するための対策などについて解説します。

VPNとは、仮想的なプライベートネットワークを構築する技術のこと

VPNは、インターネット上や通信事業者が提供する専用ネットワーク上に、仮想的なプライベートネットワークを構築する技術です。この技術を利用することで、企業の本社と支社との通信や、リモートワーク中の従業員による社内ネットワークへの接続で安全性を向上できるようになります。

VPNには大きく分けて2つの方式があります。1つはインターネットVPNで、公共のインターネット回線を利用してVPNを構築する方式です。比較的低コストで導入できるため、多くの企業で採用されていますが、インターネットを経由する特性上、適切なセキュリティ対策が求められます。

もう1つは閉域VPNと呼ばれる方式で、通信事業者が提供する専用の閉域ネットワーク(閉域網)を活用するものです。この方式は外部からの攻撃を受けにくく、インターネットVPNより高いセキュリティを確保できる点が特徴ですが、専用回線の契約や機器の導入が必要となるため、コストが高くなる傾向があります。

インターネットVPNの仕組み

インターネットVPNでは、インターネットを介してデータをやりとりするため、適切なセキュリティ対策が施されていなければ、第三者による通信傍受やデータ改ざんのリスクがあります。そのため、VPNでは主にトンネリング、カプセル化、認証、暗号化と呼ばれる4つの技術を組み合わせて、安全な通信を確保します。

トンネリング

トンネリングとは、インターネット上に仮想的な通信経路(トンネル)を作り、安全にデータをやりとりする技術です。通常、インターネットを利用する通信は様々な経路を通過するため、第三者による通信傍受やデータ改ざんのリスクがあります。しかし、トンネリングを利用することで、あたかも専用回線を使っているかのように通信が行われるため、外部からの不正アクセスを防ぐことが可能です。

VPNのトンネリングは、「PPTP」「L2TP/IPsec」「OpenVPN」「WireGuard」など、様々なプロトコル(規格)によって実現されます。これらのプロトコルを用いて通信することで、第三者から盗聴されにくい安全なデータの転送が可能になるのです。

ただし、トンネリングだけではデータの完全な保護はできないため、次の項目で解説するカプセル化や暗号化と組み合わせて利用されます。

カプセル化

カプセル化とは、トンネリングされたデータを、VPN専用のデータパケットとして包み込む技術です。インターネット上の通信では、データは、送信元、宛先、データ本体などの情報を含んだパケットとしてやりとりされるのが一般的です。しかし、そのままでは第三者に通信を傍受されるリスクがあるため、カプセル化を行うことでデータの安全性を高めます。

具体的な手順としては、VPNのトンネルの入り口で送信するデータを別の通信プロトコルのデータとして包み込み、送信元・宛先アドレスなどの新しいヘッダを付与し、トンネルの出口でカプセル化を解除して元のデータに戻します。この処理によって、通信データの内容や送信元・宛先情報が外部に漏れることを防ぐことが可能です。

カプセル化に加えて、認証や暗号化といった技術も組み合わせることで、さらに強固なセキュリティを確保できます。

認証

認証とは、VPNに接続しようとするユーザーやデバイスが正規のものであるかを確認する仕組みです。仮にトンネリングやカプセル化が適切に行われていたとしても、不正なユーザーがVPNを利用できてしまえば、機密情報が流出しかねません。そのため、VPNでは認証プロセスが必要です。

認証の方法としては、一般的にID・パスワード認証、デジタル証明書認証、多要素認証(MFA:Multi-Factor Authentication)などが用いられます。特に多要素認証は、パスワードに加えてワンタイムパスワードや生体認証を組み合わせることで不正アクセスのリスクを低減できる手法であるため、効果的なセキュリティ対策として注目されています。

暗号化

暗号化とは、VPNを利用して送受信するデータを、第三者に読み取られない形式に変換する技術です。仮に通信が傍受されたとしても、暗号キーを持たない者には解読できません。そのため、暗号化を行うことで、通信傍受やデータ改ざんといったサイバー攻撃に対抗できます。

VPNで使用される暗号化技術の1つとして、AES(Advanced Encryption Standard)が挙げられます。AESは、アメリカ国立標準技術研究所が国の標準方式として採用した暗号化技術です。そのため、VPNのみならずWi-Fiや無線LANなど幅広い用途で利用されていて、様々なVPNプロバイダーに採用されています。VPNでは暗号化と復号化のために暗号キーを使用し、送信側と受信側の両方が同じキーを持つことで、安全な通信が可能になります。

インターネットVPNのメリット

インターネットVPNには、いくつかのメリットがあります。代表的なメリットとしては、下記2点が挙げられます。

低コストで導入・運用できる

インターネットVPNのメリットは、専用回線を利用する閉域VPNと比較して、低コストで導入・運用が可能である点です。インターネット回線を活用することで、専用のネットワーク設備を構築する必要がなく、比較的手軽にVPN環境を整えることができます。そのため、企業のネットワーク環境を手軽に安全化できる手段として広く利用されています。特に、中小企業やスタートアップ企業などにとっては、コストパフォーマンスの良い選択肢といえるかもしれません。

リモートワークでも安全に社内ネットワークにアクセスできる

インターネットVPNを利用すれば、リモートワーク中の従業員がどこにいても社内ネットワークへ安全にアクセスできるようになります。海外出張中の従業員や、自宅勤務のスタッフでも、VPNを通じて社内のサーバーや業務システムにアクセスできるため、安全に社内のデータにアクセスしながら業務することが可能です。

インターネットVPNは低コストで導入できる上に、リモートワークの推進やセキュリティ強化に役立ちます。

インターネットVPNのデメリット

インターネットVPNには、コストを抑えて手軽に導入できるといったメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。インターネットVPNを導入する際には、下記2点のデメリットを踏まえて対策を十分に検討し、運用・管理を適切に行うことが求められます。

通信速度が低下する可能性がある

暗号化処理やVPNサーバーの経由によって、通信速度が低下する可能性がある点は、インターネットVPNのデメリットです。利用するユーザーの増加などによってVPNサーバーに負荷がかかると、接続が不安定になることもあります。企業がインターネットVPNを導入する際は、適切な回線の選定や、負荷分散の仕組みを検討しましょう。

サイバー攻撃の標的になりやすい

インターネットVPNは公共のインターネット回線を利用するため、サイバー攻撃の標的になりやすいというデメリットもあります。不適切なVPNプロバイダーを選んでしまうと、データの安全性が確保されず、情報漏洩の危険が高まります。そのため、信頼できるVPNプロバイダーを選定し、適切なセキュリティ対策を講じなければなりません。

閉域VPNのメリット

閉域VPNにも、複数のメリットがあります。下記2点を重視したい場合は、閉域VPNの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

高いセキュリティと安定性を確保できる

閉域VPNのメリットは、通信事業者が提供する専用回線を利用するため、高いセキュリティと安定性を確保できる点です。インターネットVPNとは異なり、公共のインターネット回線を経由しないため、外部からの不正アクセスやサイバー攻撃のリスクを大幅に低減できます。特に、金融機関や医療機関など、高度なセキュリティが求められる業種では、閉域VPNの利用が一般的です。

通信の安定性が高い

通信の安定性が高い点も閉域VPNのメリットです。専用回線を利用するため、インターネットの混雑状況に影響を受けることなく、一定の通信速度を維持できます。そのため、企業の基幹システムなどへの接続時に安定したネットワーク環境を提供できるといった強みがあります。

閉域VPNのデメリット

閉域VPNは高いセキュリティと安定した通信を実現できるメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。閉域VPNの導入を検討する際には、下記2点についても十分に考慮することが重要です。

導入・運用コストが高い

閉域VPNでは、導入や運用にかかるコストの高さには注意しなければなりません。閉域VPNを利用するためには、通信事業者が提供する専用回線を契約し、必要なネットワーク機器を設置する必要があります。そのため、インターネットVPNと比較すると、初期導入費用や維持管理コストが高額になる傾向があります。

導入までに時間がかかることがある

導入までに時間がかかることがある点も、閉域VPNのデメリットの1つです。インターネットVPNは比較的短期間で構築できますが、閉域VPNは通信事業者との契約手続きや回線工事が必要となるため、環境によっては数週間から数か月の準備期間を要することがあります。

VPN利用時のセキュリティリスク

VPNは安全な通信手段として広く活用されていますが、適切に運用しなければ様々なセキュリティリスクが生じる可能性があります。下記では、特に注意が必要なリスクについて解説します。

VPN機器の脆弱性

VPNで用いる機器やソフトウェアには、定期的にセキュリティの脆弱性が発見されることがあります。古いVPN機器を使用していたり、ソフトウェアの更新を怠っていたりすると、攻撃者に狙われ、重要な機密情報などが漏洩する事態につながりかねません。

実際に、VPN機器の脆弱性を突いたサイバー攻撃の事例も報告されています。例えば、地域医療の中核を担う病院では、給食事業者のVPN機器の脆弱性を起点にしたランサムウェアによる攻撃を受け、電子カルテなどのシステムが停止しました。

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無料VPNサービスの利用による情報漏洩リスク

無料VPNサービスの中には、十分な暗号化が施されていないサービスもあり、情報漏洩につながる可能性を否定できないため、注意しましょう。無料VPNでは、サービス提供者によって通信が傍受されている可能性もあります。また、無料化のために広告配信をしているサービスでは、不正な広告によってウイルス感染などの被害を受ける可能性もあります。

端末にインストールするだけで利用できる無料のVPNサービスは、一見すると便利ですが、業務利用には適しません。企業がVPNを導入する際は、信頼できる有料のVPNサービスを選定し、データの安全性を確保することが必要です。

ユーザーの端末のウイルス感染

VPNを利用している場合に、VPN自体が安全であっても利用する端末がウイルスに感染していたら、ネットワーク全体に被害が及ぶリスクがあります。例えば、ウイルスに感染した端末が社内ネットワークに接続すると、VPNを経由して社内の他の端末に感染が拡大し、機密情報や個人情報などのデータが外部に流出する事態になりかねません。

安全なVPN利用のための対策

VPNを安全に利用するためには、適切な対策を講じることが不可欠です。VPNのセキュリティを強化するための対策としては、主に下記4点が挙げられます。

VPN機器とソフトウェアの最新化

VPN機器やソフトウェアにはセキュリティ上の脆弱性が発見されることがあるため、最新の状態を保つようにしましょう。脆弱性のある古いバージョンの機器やソフトウェアを、更新しないまま放置していると、攻撃者に狙われるリスクが高まります。VPN機器のファームウェアやソフトウェアを定期的に更新し、常に最新のセキュリティパッチを適用することが重要です。

強固な認証方式の導入

VPNの不正利用を防ぐためには、認証方式の強化が欠かせません。特に推奨される認証方式は、多要素認証です。多要素認証を活用することで、パスワードが漏洩した場合でも、不正アクセスを防ぐことができます。また、パスワードの使い回しを避け、定期的に変更することも重要な対策の1つです。

セキュリティ対策ソフトの導入

VPNが安全に機能していても、セキュリティ対策ソフトの導入は重要です。VPNに接続する端末自体がウイルスに感染していれば、社内ネットワークに被害が及ぶ可能性があります。被害を防ぐために、すべての端末に信頼できるセキュリティ対策ソフトを導入し、定期的なウイルススキャンを実施しましょう。

従業員教育によるセキュリティ意識の向上

セキュリティ対策を強化しても、従業員が適切に運用しなければ情報漏洩などのリスクは最小化できません。例えば、不審なファイルを開いたり、端末のアップデートを怠ったりすることでウイルス感染が発生しないよう、従業員に対して定期的なセキュリティ教育を行ってください。

VPNを含めたセキュリティ対策の正しい活用法や、従業員の行動により発生するセキュリティリスクを十分に理解してもらうことが重要です。

VPNだけでなく適切なセキュリティ対策も導入し、情報漏洩を防ごう

VPNは、ネットワークのセキュリティを強化し、安全な通信環境を確保するための有効な手段です。しかし、VPNを導入しただけで情報漏洩のリスクが完全になくなるわけではありません。本記事で解説したように、VPN機器の脆弱性や端末のウイルス感染など、様々なセキュリティ上の課題が存在します。
これらのリスクを最小限に抑えるために、VPNの正しい運用と併せて、定期的な更新や強固な認証方式の導入、セキュリティ対策ソフトの活用、従業員教育の徹底などで多角的な対策を行いましょう。

また、より高度な情報漏洩対策を実施するためには、専用の情報漏洩対策ツールの導入も検討するのがおすすめです。インターコムが提供する情報漏洩対策ツール「MaLion」シリーズであれば、セキュリティポリシーの設定やポリシー違反者への警告通知などにより、社外のみならず社内の不正操作にも対応できます。情報資産の管理や情報漏洩対策の強化をお考えの場合は、ぜひお問い合わせください。

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