サプライチェーンリスクとは? 発生する原因や管理の重要性を解説
グローバル化が進む現代の企業は、原材料の調達から販売までの過程を自社内で完結できるケースは少なく、様々な企業と連携して事業を行っています。その供給網(サプライチェーン)の中では、様々なリスクが生じる可能性もあります。このサプライチェーンリスクは自社だけの問題ではなく、関連企業や取引先の状況にも影響されるため、全体を俯瞰した管理が必要です。では、企業はどのような対応をすれば、サプライチェーンリスクに備えられるのでしょうか。
本記事では、サプライチェーンリスクの基礎知識や発生する原因、管理の重要性のほか、管理の方法などについて解説します。
サプライチェーンリスクとは、原材料の調達から販売までの過程で発生するリスクの総称
サプライチェーンリスクとは、企業が製品やサービスを提供する際、原材料の調達から製造、流通、販売に至るまでの一連の過程であるサプライチェーンで発生するあらゆるリスクの総称です。従来は、自然災害や地政学的なリスク、物流の遅延などの物理的リスクを指す言葉でしたが、近年はサイバー攻撃や情報漏洩といった情報セキュリティリスクを含む言葉として捉えられるようになりました。
特に、企業を取り巻くデジタル環境の変化に伴い、サプライチェーンに関するサイバー攻撃リスクが顕在化しています。情報処理推進機構(IPA)が公表する「情報セキュリティ10大脅威 2025」では、「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が7年連続でランクインし、2025年には第2位となっています。
サプライチェーンの一部でも機能が停止すれば、製品の供給やサービスの提供が滞り、企業活動に深刻な影響を及ぼしかねません。そのため、企業にはサプライチェーン全体を見渡した包括的なリスク管理が求められています。
サプライチェーンの構造と特徴
サプライチェーンは、製品やサービスを提供するために複数の企業や組織が複雑に連携する構造となっています。例えば、原材料の供給元、製造の委託先、物流企業、販売業者など、様々な企業が関与しています。
この構造が効率的な生産・供給を可能にする一方で、リスク管理を困難にしている面も否定できません。グローバル化が進む中、国や地域を越えた多様な取引先との関係が増加していて、リスクの範囲や影響も拡大しています。多くの関係者が関わることで、リスクの特定が難しくなり、責任の所在が曖昧になりやすくなっていると言えます。
その結果、一度問題が発生すると、原因の特定や対応が遅れ、大きな損害へとつながる可能性もあるでしょう。
サプライチェーン攻撃の種類
サプライチェーンリスクの中でも近年注目されているのが、標的企業そのものではなく、その企業とつながる関連企業などの脆弱性を突いて侵入するサイバー攻撃(サプライチェーン攻撃)です。サプライチェーン攻撃には、下記の3つの種類があります。
| 名称 | 概要 |
|---|---|
| ビジネスサプライチェーン攻撃 | 関連企業や取引先などを踏み台にして侵入する攻撃手法 |
| サービスサプライチェーン攻撃 | ITシステムの保守・管理を請け負うマネージドサービスプロバイダー(MSP)などのサービス提供事業者を経由する攻撃手法 |
| ソフトウェアサプライチェーン攻撃 | 企業が利用するソフトウェアの開発・流通過程に不正なコードやバックドアを仕込む攻撃 |
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サプライチェーンリスクが発生する主な原因
サプライチェーンリスクは、様々な要因から発生します。下記では、代表的なリスク発生要因を3つに分けて解説します。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 関連企業や取引先のセキュリティの脆弱性 | 関連企業や取引先のセキュリティ対策が不十分で、そこから自社システムへの侵入を許してしまう |
| 内部の人的ミス | サプライチェーン内の従業員や委託先による人的なミスにより、情報漏洩などが発生する |
| 内部の不正行為 | 従業員や委託先による意図的な不正行為により情報漏洩などが発生する |
関連企業や取引先のセキュリティの脆弱性
関連企業や取引先のセキュリティ対策が不十分だと、そこが攻撃の入口となり、自社にまで被害が及ぶ恐れがあります。例えば、OSやソフトウェアの未更新、アクセス権限の設定の不備などが典型例です。
サプライチェーン攻撃は、堅牢な大企業よりも対策が手薄な関連企業を狙って侵入し、標的企業に被害を拡大させるという手口で行われます。そのリスクを減らすには、サプライチェーン全体でのセキュリティレベルの把握と強化が不可欠です。
内部の人的ミス
サプライチェーン内の従業員や委託先による人的なミスも、情報漏洩や不正アクセスといったサプライチェーンリスクの原因となります。メールの誤送信や、アクセス権限の設定ミスなどが代表例です。
これらのミスは悪意がなくても発生しやすく、攻撃者に悪用されると企業に重大な損害が生じる可能性があります。完全に防ぐことは難しいため、日常的な教育とミスを防ぐ仕組みづくりが重要です。
内部の不正行為
サプライチェーンリスクの要因の1つとして、従業員や委託先による意図的な不正行為も考えられます。内部の犯行により情報の持ち出しや改ざんが行われると、取引先や社会からの信頼を失う恐れがあります。
不正を抑止するためには、情報へのアクセスログの監視や内部通報制度の整備が効果的です。早期発見と迅速な対応のための体制づくりが求められます。
サプライチェーンリスクに対する産業界の取り組み
サプライチェーンリスクに対する取り組みは、産業界全体でも重視されています。その例として、2020年には産業界が主体となり、経済産業省もオブザーバーとして参加する「サプライチェーン・サイバーセキュリティ・コンソーシアム(SC3)」が設立されました。SC3は、中小企業を含むサプライチェーン全体のセキュリティ強化を支援し、業種横断的な連携を促進しています。
また、経済産業省とIPAが策定した「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」なども公表され、あらゆる企業で効果的な対策を導入するための支援が少しずつ整備されています。経済産業省は、企業の対策レベルを可視化する制度の構築も進めており、運用開始の予定時期は2026年10月以降です。
経済産業省などによる公的なガイドラインや制度の動向も随時確認して、自社で活用できそうなものは積極的に取り入れていきましょう。
サプライチェーンリスクマネジメントの重要性
サプライチェーンリスクマネジメント(SCRM)は、サプライチェーンに関わるあらゆるリスクを特定・評価し、適切な対策を講じて影響を最小限に抑えるための取り組みです。特に、サプライチェーンが複雑化しグローバル化が進む現代では、局所的なトラブルが全体に大きな影響を及ぼす可能性が高まっているため、このような取り組みが重要になっています。
サプライチェーンリスクマネジメントでは、自社の対策にとどまらず、関連企業や取引先など外部のパートナー企業も含めた包括的な視点が欠かせません。情報共有や役割分担、緊急時の対応フローなどを事前に整備することで、リスクの連鎖的な拡大を防ぐことができます。
また、リスクの早期発見と迅速な対応は、被害の最小化だけでなく、企業の信用維持や事業継続性の確保にも直結します。サプライチェーンリスクマネジメントは単なるリスク対策ではなく、経営戦略の一環として捉えるべき重要な施策と言えるでしょう。
サプライチェーンリスクマネジメントのための具体策
サプライチェーンリスクを効果的に管理するには、計画的かつ実行可能な対策が必要です。ここでは、自社と取引先の両面から取り組むべき具体策を7つの視点で紹介します。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 自社のセキュリティ状況の把握と課題洗い出し | 自社のセキュリティ体制を見直し、どこに弱点があるのかを明確にする |
| 内部の人的リスク対策と教育の徹底 | 人による誤操作や不正行為といった人的リスクを防ぐために、日常的なセキュリティ教育などの仕組みを導入する |
| セキュリティ対策ソフトの導入と活用 | ふるまい検知機能やEDR(Endpoint Detection and Response)を備えたソフトウェアを導入することで、ウイルス感染や不正アクセスの兆候を早期に察知する |
| 関連企業のリスク評価とパートナー選定 | ISMS認証の有無や、情報管理体制などを確認し関連企業の状況を適切に評価する |
| 関連企業や取引先とのセキュリティ契約の締結 | セキュリティ対策やインシデント発生時の対応、責任の所在を明記した契約を結ぶ |
| サプライチェーン全体でのセキュリティ水準の均一化 | サプライチェーン内のすべての関連企業が高いセキュリティレベルを維持することで、リスクの連鎖的な拡大を防ぐことができる |
| サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度への対応 | サプライチェーンを構成する各企業のセキュリティ対策の状況を可視化する制度により、サプライチェーン全体のリスクを管理する |
自社のセキュリティ状況の把握と課題洗い出し
サプライチェーンリスクマネジメントでは、自社のセキュリティ体制を見直し、どこに弱点があるのかを明確にすることが重要です。現状の把握がリスク対策の出発点となります。
セキュリティポリシーなどのルールに問題がないかを再検討し、エンドポイントとなる端末のセキュリティの強化や、インシデント発生時の初動体制の整備などを進め、優先順位をつけて対策を実施します。継続的な評価と改善を行えば、強固な体制を構築できるでしょう。
内部の人的リスク対策と教育の徹底
人による誤操作や不正行為といった人的リスクを防ぐために、日常的なセキュリティ教育などの仕組みを導入することも、サプライチェーンリスクマネジメントには不可欠です。USBメモリやプリンターの利用制限など、技術的な対策と併せて実施すると効果的です。
定期的な研修や啓発活動を通じて、従業員のセキュリティ意識を高めることが、リスクの抑制につながります。
セキュリティ対策ソフトの導入
サプライチェーンリスクマネジメントのためには、自社に適切なセキュリティ対策ソフトを導入することも欠かせません。
未知のウイルスでも挙動から危険性を検知できる振る舞い検知機能や、エンドポイントで端末の挙動や操作を監視するEDR(Endpoint Detection and Response)機能を備えたソフトウェアを導入することで、ウイルス感染や不正アクセスの兆候を早期に察知できます。導入時は機能や実績を比較し、自社の課題に合った製品を選ぶことが重要です。
関連企業のリスク評価とパートナー選定
サプライチェーンリスクマネジメントのためには、関連企業や取引先のセキュリティ対策を把握し、リスクの高い企業との取引を見直すことも必要になります。情報管理体制や、情報セキュリティの国際認証であるISMS認証の有無や、情報管理体制などを確認し関連企業の状況を適切に評価しなければなりません。
リスク評価は一度きりでなく、継続的に実施することも重要です。環境の変化に応じて柔軟に見直し、信頼できるパートナーとの関係を築きましょう。
関連企業や取引先とのセキュリティ契約の締結
サプライチェーンリスクマネジメントのためには、関連企業や取引先とセキュリティに関する契約を締結することも重要です。関連企業や取引先との契約には、必要なセキュリティ対策の内容やインシデント発生時に対応するタスクの範囲、責任の所在を明記しましょう。これにより、トラブル発生時の混乱や被害の拡大を防げます。
再委託時の監督責任や、新たな脅威への対応についても明文化しておくことで、対応の確実性が高まります。契約内容は定期的に見直し、最新のリスクに対応できる状態を維持することも必要です。
サプライチェーン全体でのセキュリティ水準の均一化
サプライチェーン全体でのセキュリティ水準の均一化も、サプライチェーンリスクマネジメントのために重要です。サプライチェーン内の関連企業ごとにセキュリティ対策にばらつきがあると、弱い部分が攻撃の入口になります。すべての企業が高いセキュリティレベルを維持することで、リスクの連鎖的な拡大を防ぐことができます。
セキュリティ水準の均一化のためには、共通のガイドラインや基準を設け、定期的な監査や情報共有を行うことが有効です。経済産業省のガイドラインや業界標準の活用も、全体最適を図る際に役立つでしょう。
サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度への対応
サプライチェーンリスクマネジメントのために、経済産業省が整備を進めているサプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度に対応するのも有効です。
この制度は2026年10月から開始を予定しています。想定されているのはサプライチェーンを構成する各企業のセキュリティ対策の状況を「3つ星」「4つ星」「5つ星」で評価し、対策のレベルを可視化する仕組みです(2025年11月現在)。詳細は、経済産業省の「「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度構築に向けた中間取りまとめ」を公表しました」をご参照ください。
このように、サプライチェーン内の各企業で実施されているセキュリティ対策を統一的に評価できる仕組みがあれば、サプライチェーン全体のリスク管理を効率化できます。
自社での対策と関連企業との連携で、サプライチェーンリスクを管理しよう
サプライチェーンリスクは多岐にわたり、企業が単独で対応するのは困難です。だからこそ、関連企業全体を巻き込んだリスク管理が欠かせません。
まずは自社の現状を正しく把握し、リスク評価を行うことが第一歩です。その上で、関連企業とも連携しながらサプライチェーン全体で必要な対策を段階的に導入し、継続的な改善を図ることがリスク軽減につながります。
自社や関連企業で発生する可能性がある情報漏洩リスクに対応するためには、「MaLion」シリーズが役立ちます。IT資産を可視化することで脆弱性のある端末やソフトウェアを早期に把握でき、また、不審な操作をログ監視で検知することで、内部不正の迅速な発見も可能です。
さらに、拠点やグループ会社を含めた統一的なセキュリティポリシーを適用することで、万が一インシデントが発生した際も操作履歴から原因・影響範囲を速やかに特定できるため、適切な対応につなげられます。サプライチェーンリスクへの対応として情報漏洩対策の導入を検討している場合は、ぜひご検討ください。
