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AIを活用したセキュリティ対策とは? 具体例や注意点も解説

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AIを活用したセキュリティ対策とは? 具体例や注意点も解説

企業のIT環境は日々進化し、同時にサイバー攻撃の手法も高度化しています。従来のセキュリティ対策では防ぎきれない攻撃が増える中、AIを活用したセキュリティ対策が注目を集めています。では、AIによってどのようなセキュリティ対策が実践できるのでしょうか。
本記事では、AIによるセキュリティ対策の具体例や、活用時の注意点を解説します。

AIによるセキュリティ対策が注目を集めている背景

AIによるセキュリティ対策が注目を集めている背景には、サイバー攻撃の増加やセキュリティ人材の不足が挙げられます。

総務省の「令和6年版 情報通信白書」によると、サイバー攻撃に関連する通信規模は年々増加しており、2015年には約632億パケットだったのが、2023年には約6,197億パケットもの通信量が確認されました。サイバー攻撃の手法も年々巧妙化、多様化していて、フィッシング詐欺、ランサムウェア、ゼロデイ攻撃などの高度な攻撃が増加し、企業にとって無視できない課題となっています。

また、セキュリティを専門とする人材の不足も深刻化しています。経済産業省の「サイバーセキュリティ体制構築・人材確保の手引き ~ ユーザー企業におけるサイバーセキュリティ対策のための 組織づくりと従事する人材の育成 ~」によると、セキュリティ部門を統括するCISO(Chief Information Security Officer)を設置している企業は7.5%、セキュリティ対策の専門部署であるCSIRT(Computer Security Incident Response Team)を設置している企業は31.1%でした。多くの企業が十分なセキュリティ対策を講じたくても、専門知識を持った人材の確保が難しい状況にあることがわかります。

このような背景から、人手不足を補いながら高度なサイバー攻撃に対応することの重要性が意識され、AIを活用したセキュリティ対策が注目されるようになりました。大量のデータをリアルタイムで分析できるAIの特性を活かして、サイバー攻撃の検知や新たな攻撃手法への対応にAI技術を用いる方法が検討され、AIを活用したセキュリティ対策製品の導入が進んでいます。

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AIを活用したセキュリティ対策の具体例

AIは、従来のセキュリティ対策では検知が難しいサイバー攻撃に対応し、より高度な防御を実現する手段として注目されています。下記の5点は、AIを活用したセキュリティ対策の代表例です。

未知のウイルスの検知

AIは、未知のウイルスの検知に活用することが可能です。

従来のウイルス対策ソフトは、既知のウイルスを検知することに特化しており、新たなウイルスが発生した際にはアップデートが提供されるまで対策できないのが一般的でした。しかし、AIを活用すると、AIが正常なプログラムの挙動と異常な挙動を学習し、未知のウイルスであっても検知できるようになります。この技術を実装したNGAV(Next Generation Anti-Virus)と呼ばれるセキュリティ製品も登場しており、企業のセキュリティ対策の強化に貢献しています。

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不正アクセスの検知

AI技術は、不正アクセスの検知にも役立ちます。

企業のシステムに対する不正アクセスが、正規のID・パスワードの盗難などによって発生すると、不正アクセスが発生していることを検知するのは簡単ではありません。しかし、AIを活用すれば、通常のユーザーの挙動と不正なユーザーの挙動を比較し、不正アクセスを検知することが可能です。例えば、通常とは異なる時間帯や場所からのログインが試みられている場合、それを異常な動きとして検出し、アラートを発することで、被害を未然に防ぐことができます。

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ログの解析

AIによってログを解析し、サイバー攻撃の兆候を検知することも可能です。

企業のシステムでは大量のアクセスログや操作ログが生成されていますが、AIでこれらのログデータを解析し、正常時のパターンと異常発生時のパターンを学習すれば、サイバー攻撃を即座に検知できます。例えば、AIで操作ログをリアルタイムで監視すれば、不正な操作を検知した際に企業は迅速な対応をとることができ、被害の拡大を防ぐことができます。

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トラフィックの解析

ネットワーク上のデータ通信量(トラフィック)をAIが解析することで、社内システムに障害が発生する予兆を検知し、事前に警告を通知することも可能です。例えば、通常とは異なる急激なデータ転送が発生した場合、それがDDoS攻撃や情報漏洩の兆候である可能性をAIが判断し、管理者に通知できます。場合によっては、被害が大きくなる前に対応することができます。

セキュリティ診断

AIを活用したセキュリティ診断サービスも提供されており、企業のシステムの脆弱性を自動的に検出することができます。手作業では発見が難しい大規模なシステムであっても、AIを活用すれば迅速にセキュリティホールを特定できるため、効率的に対処できるようになります。

AIを悪用したサイバー攻撃の具体例

AIはセキュリティ対策に活用できる一方で、サイバー攻撃の手段としても悪用されています。攻撃者はAIの学習能力や自動化機能によって、従来よりも高度な攻撃を仕掛けることが可能になっています。AIを悪用したサイバー攻撃の代表例は、下記のとおりです。

ディープフェイク

ディープフェイクとは、AIによって作成された精巧な偽画像や偽動画のことです。この技術は、映像編集やエンターテインメント分野で活用されるのが一般的ですが、サイバー攻撃にも悪用されることがあります。

例えば、経営者や上司の顔や声を偽造し、従業員に不正な指示を出して機密情報を盗み取るビジネスメール詐欺は、ビジネスシーンでのディープフェイクによる攻撃の代表的な例です。また、ディープフェイクを利用して偽のニュースや証拠映像を作成し、社会的混乱を引き起こそうとするケースもあります。

回避攻撃

回避攻撃とは、AIが学習するデータに敵対的サンプル(Adversarial Examples)と呼ばれるノイズを加え、誤認識を引き起こす攻撃手法です。

例えば、画像認識を利用したセキュリティシステムに対して、敵対的サンプルを読み込ませるような特殊な画像を読み込ませることで、セキュリティシステムによる検知を回避することが可能になります。この技術により、攻撃者は不正アクセスを試みることができます。

ファジング

ファジングとは、システムの脆弱性を発見するために、無作為なデータや予測不能な入力を送り込む手法です。本来はソフトウェアの品質テストなどで用いられますが、攻撃者によって悪用されることもあります。

AIを活用したファジングでは、AIが効率的に多数の異常データを生成し、システムの脆弱性を自動的に発見することが可能です。これにより、攻撃者は未発見の脆弱性を突くゼロデイ攻撃を実行しやすくなります。

ポイズニング

ポイズニング(データポイズニング)とは、AIが学習するデータに意図的に誤った情報を混入させ、AIの判断を狂わせる攻撃です。

例えば、AIがスパムメールを検出するシステムに対して、攻撃者がスパムメールを正常なメールとして認識させるデータを学習させることで、スパムフィルターの機能を無効化することができます。さらに、AIを活用したウイルス対策ソフトに対して、特定のウイルスを無害なファイルと誤認させることも可能です。

AIを活用したセキュリティ対策の注意点

AIを活用したセキュリティ対策は、巧妙化するサイバー攻撃に対する有効な防衛手段ですが、導入にあたって注意すべき点もあります。企業がAIを活用する際に直面する可能性のある課題としては、下記のような点が挙げられます。

自社でセキュリティ対策を講じる場合はAIに精通した人材が必要

AIを活用したセキュリティ対策を自社で構築・運用するためには、セキュリティとAIの両方に精通した人材が必要になる点に注意してください。

AIが適切に機能するためには、機械学習モデルのトレーニングやデータの前処理、継続的なチューニングが必要となります。しかし、このような専門知識を持つ人材の確保は容易ではなく、多くの企業が人手不足に直面しています。そのため、AIを活用したセキュリティ対策を検討する際は、自社での運用が現実的かどうかを十分に検討しなければなりません。

AIを狙った攻撃への防御が必要

AIを活用したセキュリティ対策を導入した場合、その対策がサイバー攻撃の標的となる可能性がある点にも注意が必要です。

回避攻撃やポイズニングなどのように、AIが読み込むデータに細工を施し、誤った判断をさせる攻撃手法が存在します。こうした攻撃を防ぐためには、AIの学習データの管理を徹底し、異常なデータが混入しないようにする仕組みを整えることが重要です。

AIを活用したセキュリティ対策の効果を高める方法

AIを活用したセキュリティ対策を効果的に運用するためには、下記のようなデータの継続的な学習、最新のセキュリティ情報の把握、人間による監視の併用が不可欠です。セキュリティ対策にAIを導入しただけでは不十分で、適切な運用方法を確立することで、より精度の高いセキュリティ対策を実現できます。

AIに継続的にデータを学習させる

AIが適切に機能するためには、データの質と量が重要です。異常検知の精度を向上させるために、過去の攻撃手法や正常なパターンを学習させましょう。特に、サイバー攻撃の手法は日々進化しているため、AIが最新の脅威にも対応できるよう、定期的に最新のデータを学習させることが必要です。

例えば、迷惑メールのフィルタリングにAIを活用する場合は、企業が遭遇した新たな迷惑メールの事例を収集してAIに学習させることで、同様の攻撃に対して迅速に対応できるようになります。

セキュリティに関する最新の動向を把握する

サイバー攻撃は常に進化しており、新たな脅威が次々に登場しているため、企業は最新のセキュリティ情報を把握し、AIの学習モデルに反映させる必要があります。セキュリティベンダーが発表するレポートや政府機関が提供するサイバー攻撃の分析資料を活用し、新しい脅威のパターンを知り、防御策を取り入れるようにしてください。

また、AI技術に関する最新の情報も収集し、より優れたツールを活用することも重要です。最新情報に基づいてAIを活用することで、より実用的なセキュリティ対策を実現できます。

AIだけに頼らず人間による判断も取り入れる

AIを活用したセキュリティ対策では、AIだけに頼らず人間による判断も取り入れることも重要です。AIは強力なツールですが、サイバー攻撃を完璧に検知できるわけではありません。誤検知や過検知が発生する可能性があるため、AIの判断をそのまま信頼するのではなく、人間の監視や分析を組み合わせましょう。

例えば、AIが異常を検知した際、実際に対応が必要かどうかを担当者が判断する仕組みを整えることで、より確実なセキュリティ対策が可能になります。この場合、担当者にはセキュリティ対策とAIの専門的な知識が必要です。

また、AIを標的としたポイズニング攻撃のリスクを考慮し、AIの学習データに不正なデータが含まれていないかを定期的に監査する体制を構築することも求められます。

AIをうまく活用して、万全のセキュリティ対策を構築しよう

AIを活用したセキュリティ対策は、サイバー攻撃の高度化に対応するために欠かせない技術となりつつあります。AIは大量のデータを解析し、未知の脅威を検知する能力を持っていますが、導入するだけで万全な対策になるわけではありません。適切に運用し、最新の脅威に対応できるよう、情報収集を欠かさないようにしてください。

企業がAIを活用したセキュリティ対策を実施する際には、AIに関する専門知識を持つ人材の確保が課題となることもあります。そのため、自社でゼロからシステムを構築するのではなく、AI技術を活用したセキュリティ製品を導入することが、効率的な選択肢となるでしょう。

例えば、インターコムの「MaLion」シリーズでは、「Internal Risk Intelligence」との連携により、AIを活用した社内の情報漏洩リスクの分析が可能になります。「MaLion」が収集したパソコンの稼働状況やファイル操作、印刷などのログ情報を「Internal Risk Intelligence」がAIで分析することにより、内部不正による情報漏洩の兆候を検知することが可能です。効果的な情報漏洩対策を導入したい場合は、ぜひご検討ください。

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